生命と作品

なぜ木彫なのか？

私が木彫を始めたきっかけは、1965年に来日中のアンフォルメル運動の推進者ミシェル・タピエとの出会いでした。
草月流の展覧会に出品した私の作品写真にタピエ氏が興味を持ってくださったということを聞いて、ぜひお会いしたいと思い、出かけていきました。

「この作品は今もあるか、展覧会後も残しておけないのか」と尋ねられ、

「もう取り壊してしまいました…」と答えると、

「あなたは残すことのできる美術品をつくりなさい、彫刻をしなさい」と、私に希望と指針を与えてくださったのです。

私にとって木彫は「生命の復活」です。
なぜならば、一度失われた生命が永久に朽ちることのない作品に造形されるからです。
素朴でシンプルな小作品に私は別の美を感じます。
これからも無限なるものに瞳を向けて彫りつづけてまいります。

幼少の墨の記憶、そして

墨と語り、50年有余の歳月がたちました。
幼い日、常に筆を持つ父の傍らで墨を見ていた私は、いつしか墨をこよなく親しみ、人知れず抽象画を描きつづけておりました。
ある瞬間に燃える情熱が私に筆を持たせるのです。
それは私だけが見える世界で、脳裏に浮かぶその幻影は描くことによって失われ、再び見ることができないものなのです。
そこには音もなく、人も見えず、炎のように私は抽象画の中にとけこんでいきます。
墨の抽象画は限りなく、私にとって「永遠（とわ）につづく生命（いのち）」です。
新しい心で新しい私の世界を描きつづけてまいります。